風力発電と #環境アセスメント ) 山口市 #阿東 徳佐から島根県吉賀町 #柿木村 にかけての #三ツヶ峰 を歩く(安渓貴子)
2013/09/13
縮写真1 WakaiBunaRin
縮写真2 ShitabaegaNaiJinkourin
縮写真3 EdanoMagattaMatsu
縮写真4 KakinokiMuraNoRindou
縮写真5 WagayaNoUrayamaNoJisuberi
縮写真6 AtoTokusaNoJinkourinNoZuishoNiDoshakuzure
風車建設予定地とされる山口市阿東徳佐から島根県吉賀町柿木村にかけての三ツヶ峰
を歩いてきました
安渓貴子(あんけい・たかこ、生態学専攻)
◎見たこと
「昔は秋になるとあの峰のブナが、いちめんに色が変わってね。山の色が麦の穂の
色になったら麦の種を蒔きなさいと教えられたものでした。それが、今はすっかり人
工林になってしまって、山が冬でも黒々としています。」阿東徳佐から三ツヶ峰の山
並みを 望みながら、地元で有機農業を営むYさんに聞いた。
発電用風車建設予定地の山を歩いてみたいという私達の希望に、環境エネルギー政
策研究所(ISEP)の飯田哲也さんも呼びかけに加わってくださって、2013年5月3日、
山口市徳地の仏垰(ほとけだお)からの三ツヶ峰登山と予定地の視察が実現した。一
行は山口・島根の両側からの参加者と飯田さんや二人の小学生も交えて22人、ゆっく
りと稜線を歩いて登った。
ほとんどが伐採されたと聞かされていたブナ林は、意外にも健在だった(写真1)。
うつくしいブナの森が残っていたのだ。イヌブナというブナの仲間の林にも出会えた。
樹齢100年を越えると思われる堂々としたブナの木も点在していた。芽吹いて間も
ない森は明るかった。ブナは落葉樹で、冬は葉を落として林床が明るい。そのことも
あって他の木々や春を彩る草と共存するにぎやかな森をつくっている。ブナ林のなか
に鳥の声がひびき、イワウチワ、トキワイカリソウ、ツクバネソウなどの,早春の草
花も咲いている。オオカメノキがたくさんの白い花をつけている。
わざわざ益田市から足を運んで、山を案内してくださった元高校の先生のTさんに
よると、1960年代からこのあたりのブナ林をどんどん伐ったという。そのあとにスギ
やヒノキを植えて人工林にした。しかし木材自由化によって安い輸入材が入ってきた
ことで、多くの場所は、植えたまま放置された。そんな木々は、成長して密生状態に
なり、樹冠を被うスギやヒノキが光を遮って暗く、下生えの灌木や草がまったく生え
ていない場所が多く見られた(写真2)。スギばかり、ヒノキばかりの森には虫も小
動物もみあたらない。林床はかさかさに乾燥して、土壌が見るからにやせている。こ
のまま放置すると土壌がやせて山崩れをおこしかねない。この人工林に手を入れて、
天然林に近い状態に戻していくことは、地域の環境を守るうえで望ましいことだ。
しばらく歩くと人工林と天然林がモザイクのようになって、交代で出てくる場所を
通る。人工林は登山道がつけられた稜線の両側にあり、私たちの歩いた範囲では、そ
の多くが阿東側にあった。「天然林」とは皆伐の後、植林しないで切り株から芽吹い
てくる萌芽や種からの芽ばえで「天然更新」した森である。天然更新で20年から50年
くらいたった森だと推定される、ブナを交えた色々な年齢の森があった。天然更新に
よる天然林は多種類の木々からなる森で、生物多様性保全の見地から言っても貴重で
ある。
また、稜線にはチチマキザサが密生する場所もあり、そういった場所は、アカマツ・
クロマツが、風によって枝や幹を曲げられながら立っている(写真3)。そもそもク
ロマツが三ツヶ峰のような内陸にあるのは、風がよく吹く場所だと山口県では言われ
ている。強い風が吹く場所だから、風力発電の予定地になったのであることがわかる。
単純に考えると、手入れしてない人工林は伐って天然林に戻したい。ブナ林は原生
林に近いものも若いものも残したい。だから人工林の場所だけを伐採して風車を立て
ることができればいいのだろう。しかしそれは、そう簡単ではないだろう。以下にこ
の計画の問題点や日本の環境影響評価制度に関心をもってきた私なりの提案を述べた
い。
山口市環境審議会の2012年8月10日の議事録で、風車建設業者であるジャネックス
(株)が答えているものによれば、風車は20基の建設が予定されていて、風車の立つ
場所は、それぞれについて40m×40mの広さが必要とされる。そしてこの間を幅6~7
mの幅の道が必要で、これは建設後のメンテナンスのためにも残すとのことだ。この
尾根の上にこの広さの平らな土地をどこにどうやって作るのだろう。
森林の伐採と土地を平らにするため、山を削り・埋めることになる。そのとき出た
材木や植物、土砂をどこに持って行くのか。遠くに持って行くのは不経済だからと「
必要がない」とされる近場の谷を埋めることになるのではないか。しかし谷には谷の
生態系がある。ランの仲間をはじめとする貴重な生き物たちが生きているのである。
工事のための取り付け道路も同じ問題を持っている。単なる林道を拓く場合でも問
題点があることを、私達は多くの過去の失敗例から知っている。この日、峠から下り
てきた道も林道がくずれていた(写真4)。
さらに、伐採された木々を無駄に埋めたり腐らせたりすることなく、有効に利用す
ることも考えられなければならない。
こういった伐採、裸地化、土砂の処理、地形の改変といったことが、長い目で見て、
自然の生態系に与える影響を評価しなければならない。そして、約20年といわれる風
車の寿命が来た時の廃棄や交換、跡地の利用なども、評価することが大切である。
◎考えたこと
現状では、市民のほとんどがこのような計画が進められていることを知らない。山
口市阿東徳佐で行われた説明会にも、10人ほどの人たちが参加しただけだった。この
計画が実際にどのような影響を環境に与えるかを知るための提案として、例えば、今
となっては非常に貴重な西中国山地の天然林を守ることを重点に、撤退を含めて建設
計画を根本的に見直してみてはどうか。そのためには、まず空中写真から詳しい植生
図を描き、その天然林と人工林の分布を見る。それと地形図を重ねて伐採が可能で天
然林への更新が望ましい人工林の場所の地図を描く。それをつないでみてはどうだろ
うか。そこに40m×40mの広場をつくる空間が何か所作れるかを検討しよう。もともと
の計画の20か所がとうてい無理であれば、この計画そのものが環境への配慮と両立
できないとわれわれは理解すべきではないか。そしてメンテナンスのためにそれらの
敷地をつなぐ幅6mの道路、さらに機材を風車まで運ぶ取り付け道路の、例えばツキ
ノワグマのような動物の行動への影響の評価も必要である。またこれに地質図を重ね
て安全性を検証することも当然必要である。
それでもなお、建設が可能と判断されるのであれば、計画実施にともなって伐採す
る木は、山で腐らせるのではなく、材木として、またバイオマスとして利用すること
を強く要望したい。阿東にはバイオマス利用の構想があるし、それを実行すべく動き
出している人もいる。地域の雇用もふえると考えられる。
これは、この風力発電計画に限ったことではないが、人工林の伐採後についても生
態学の立場からの提案がある。森林の更新の問題である。人工林をこの地域本来の森
へとかえすべきだと考える。その方法についての案を以下に述べよう。
今回歩いてみた結果では、比較的若いブナ林が見られた。伐採後20年から50年くら
いだろう。つまり天然林の更新がうまくいっている例である。それらがいつどのよう
な手入れがされたのか、またされなかったのか、その結果の(たとえば災害もふくめ
て)現状があるという分析が可能である。三つの地域(山口市阿東徳佐・山口市徳地
柚木・島根県吉賀町柿木)の林業関係の人々に聞くことと、現地調査でそれを解明で
きないだろうか。そのことによって、人工林の伐採をどのように行い、その後のメン
テナンスをどうするのがベストの選択であるかかが見えてくるはずである。
過去の環境アセスメントの評価書を見ると、「裸地をつくったあとを植物でカバー
する」と植栽をしたり種をまいたりすることが多い。多くの場合、そのことによって
外来種が持ち込まれ、それがあらたな自然破壊を招く。現在、イタチハギや牧草など
の外来種のほか、中国産のヨモギなど野草の種が蒔かれたりもしている。これは、一
見日本産と区別がつかないため、知らず知らずのうちに遺伝子汚染が拡大するという
危険をはらんでいる。たとえ日本産のものであっても、産地が違えば外来種と同じ遺
伝子汚染の原因となる。その土地にとっては「よそもの」であるために健康な植生が
回復せず、健康な生態系が回復しないことが危惧されるのである。
この問題に関心をよせる市民としては、すでに建設された発電用風車の現場から学
ぶことが大切である。たとえば山口県内でも、すでに建設された風車が何カ所かある。
それらについての情報を得、あるいはその現場に行ってみる必要がある。このときの
工事はどのような経過でなされたのだろうか。現在までに起きた問題について知りた
いものである。風車はまだ歴史が浅いけれど建設後の結果が公表されていないだろう
か。
◎要望したいこと
それにしても、行政に対して最も望みたいのは方法書を始めとした情報公開をさせ
ることである。「三ツヶ峰ウインドシステム風力発電事業」方法書は、2012年6月か
ら一ヵ月間の縦覧の際に、山口市の出張所など限られた場所で公開された。そして、
阿東に住む友人は縦覧に行ったが、そのコピーを取ることも写真を撮ることも許可さ
れなかった。これでは、形だけの情報公開という批判を免れないであろう。これにた
いして、その翌年の3月から一ヶ月半、同じ山口県で風力発電事業の環境アセスメン
トの方法書の縦覧が行われた「安岡洋上風力発電事業」では、指定の縦覧場所に行か
なくてもインターネットによって方法書を見ることができたし、その情報を保存して
おけばいつでも見ることができる。
環境影響評価法を見直す「改正法」が施行10年を経た2011年4月に成立し、2012年4
月から施行された。それによって方法書、準備書および評価書について電子縦覧が義
務化されている(上田健二2012)。「三ツヶ峰ウインドシステム風力発電事業」の方
法書縦覧の時すでに電子縦覧が義務化されていたのである。この法令を遵守して、今
からでも遅くはないから、電子縦覧を業者にさせるべきであると考えられる。公開さ
れる情報が足りなければ、不十分な情報や憶測によって、計画の途中で地域住民から
の強い反発を招きかねないことを憂慮するものである。
2013年7月28日の豪雨によって山口市阿東の北部、嘉年(かね)と徳佐は土砂災害
を受けた(写真5)。私たちが歩いた山並みにも、山肌にツメでひっかいたような赤
い跡が至る所に見え(写真6)、田畑や河川、水路が山からの土砂に埋まった。
引用文献
上田健二、2012年「環境影響評価法の改正について」『環境アセスメント学会誌』
10 (2): 104-107.
写真1:三ツヶ峰のブナ林
写真2:林床に草や木が全くみられない人工林
写真3:マツが風で曲がっている
写真4:柿の木村の林道
写真5:2013年7月28日の山口市阿東の豪雨災害(徳佐地区)
写真6:2013年7月28日の山口市阿東の豪雨災害(三ツヶ峰の近く)