移民をめぐる曾野綾子発言)筋金入りの差別者へ日本アフリカ学会会員有志が手紙を送る
2015/02/18
共同通信 毎日新聞 朝日新聞などが 書いていますが、曾野綾子氏が2015年2月11
日の産経新聞に載せた意見「労働力不足と移民 『適度な距離』保ち受
け入れを」というとんでもないものが産経新聞に掲載されました。
これは在日アフリカ人として看過しがたい発現だと思っていたら、私と妻の貴子の両
方が会員である
日本アフリカ学会会員有志による意見書が公開の書簡の形で公表されましたので、そ
れに名前をつらねることに賛同いたしました。
もとの文章は https://twitter.com/HirokoTabuchi/status/565703246275444737/photo/1
報道は、例えば毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20150218k0000m040123000c.html
これに名を連ねることができるのは、日本アフリカ学会会員のみです。
所属とお名前を連絡先メールアドレス(sankeikougi◎gmail.com ◎を@にして送信)
にお送りください。
facebookにもページがたちあがっています。「いいね!」は学会会員以外でも可能で
す。
https://www.facebook.com/sankeikougi?fref=ts
手紙の全文を以下にシェアいたします。
2015年2月16日
曽野綾子様、
産業経済新聞社御中
2月11日付コラムについての撤回と謝罪の要望
拝啓、
時下、ますますご清祥のことと存じます。このたび本書面をお送りしましたのは、
貴『産経新聞』2015年2月11日付朝刊の第7面に掲載されました曽野綾子氏ご執筆のコ
ラム「透明な歳月の光 労働力不足と移民 『適度な距離』を保ち受け入れを」の記
述に関しまして、私ども、長年にわたりアフリカ研究に従事してまいりました研究者
といたしましては看過できない内容を含んでいると考えたからでございます。本コラ
ムをご執筆にあたられました曽野綾子氏およびコラムを掲載されました産業経済新聞
に遺憾の意を表明しますとともにその真意を質したく存じます。
曽野綾子氏は、コラムの中で、高齢者の介護を担う労働力の不足を緩和するために
労働移民の受け入れについて述べられ、また「外国人を理解するために居住を共にす
ることは至難の業である」と論じておられます。加えて、「もう20~30年も前に南ア
フリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人とい
うふうにわけて住むほうがいい、と思うようになった」と書いておられます。
ご高承の通り、南アフリカ共和国では、1948年の国民党政権成立期から1994年のマ
ンデラ大統領の政権が成立するまでの半世紀、あるいはそれに先立つ1910年の南アフ
リカ連邦の成立以後を含めますと一世紀近く、人種隔離(アパルトヘイトあるいはカ
ラーバー)の政策が実施されてきました。南アフリカで実施されてきたアパルトヘイ
トは、少数白人が特権集団として多数のアフリカ黒人をほとんど無権利状態のままご
く限られた特定の地域に隔離し、低賃金で不熟練の出稼ぎ労働としてさまざまな経済
活動に利用する労働力の管理システムでした。日本に導入すべきとされる労働移民の
「居住区をわける」という考え方は、アパルトヘイトの労働管理システムそのもので
す。「居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思
うようになった」とお考えのようですが、アパルトヘイトは、「白人、アジア人、黒
人というふうに分けて住まわせる制度」のことですから、曽野綾子氏は「アパルトヘ
イトはよかった」と記しておられることになります。つまり、個人の経験から、アパ
ルトヘイトはよいことだと思っていたとおっしゃっているわけです。しかし、日本を
除く国際社会では、「アパルトヘイトはよかった」という趣旨の言葉を活字にしただ
けで、「ホロコーストはよかった」と主張するのと同種のことであると受け止められ、
厳しい社会的制裁を受けることになります。閉ざされた日本の言論空間では日本語で
言いっ放しになっていたようなことも、これだけ在日外国人が増えた現在では、それ
ぞれの言葉に翻訳され、情報はたちどころにグローバルに拡散し、話者にはすぐさま
応答責任が課されるのです。国際連合が人類に対する犯罪と呼んだアパルトヘイトに
ついて、実はいいことだと思っていた、といった考えが活字メディアのうえで流通し
たら、執筆者と掲載紙は表現を撤回し、謝罪するのが当然のことです。南アフリカの
アパルトヘイトは非人道的な行為として国際社会において厳しく非難されてきました
し、日本でもアパルトヘイトの廃絶にむけて決して少なくはない心ある人々が行動し
続けてまいりました。私どもは、今日でも、アフリカに学びつつ、アフリカの人々と
ともに日本の人々に真のアフリカの姿を伝えることで偏見と差別をなくそうとつとめ
ております。
また、曽野綾子氏は、南アフリカ共和国のモハウ・ペコ駐日大使による抗議への回
答のなかで、「私は文章の中でアパルトヘイト政策を日本で行うよう提唱してなどい
ません。生活習慣の違う人間が一緒に住むことは難しい、という個人の経験を書いて
いるだけです」と発言しておられます。しかし、人種ごとに居住区を分けることは、
アパルトヘイト政策の根幹を成しています。また、アパルトヘイト政策が国際社会か
ら非難されてきたおもな理由もこの点にあります。つまり、同氏のコラムが「個人の
経験を書いているだけ」では済まされない問題をはらんでいることは明白であり、ア
フリカ研究の学術的知見に照らしてみても、アパルトヘイト政策を擁護する趣旨をもっ
た見解であり、国際社会からの非難の対象となってもやむを得ないと判断せざるを得
ません。
そもそも、「人種」という概念は、ヨーロッパで形成された科学的根拠のない偏見
を、植民地支配や奴隷制等の弱者の支配に応用した歴史的経緯により成り立った概念
に過ぎません。肌の色に基づいて人間を区別すること自体、全く学術的な根拠を持た
ないことは、自然科学、人文社会科学を問わず学界の共通認識となっています。この
ような偏見と差別に満ちた人種概念に依拠して居住区を分けるべきだという曽野綾子
氏の主張は、学術的にみても、問題のある見解と判断せざるを得ません。
考えますと、2015年は、インドネシアのバンドンでアジア・アフリカ諸国の会議が開
催されて60年にあたりますし、南アフリカでは故ネルソン・マンデラ元大統領が釈放
されて25年にあたります。1960年代の初めにアフリカ諸国が独立しはじめた頃、日本
の知識人たちはアフリカのナショナリズムや自治について研究し、理解しようと試み
始めました。日本のアフリカ研究はこの萌芽期を経て、今日にいたっております。独
立期のアフリカの動向に深い関心を示し、この動きを伝え、日本のアフリカ研究の定
礎にかかわった知識人の中には、早くから日本における反アパルトヘイト市民運動を
築きあげていった人物もおりました。
ご高承のように、これまで日本に暮らすアフリカ人の存在は目立ったものではあり
ませんでしたが、近年、在日ないし滞日アフリカ人の数は増えております。留学生や
外交関係者だけではなく来日するアフリカ人の数も職業も多様になってきました。こ
のようにアフリカ人の存在が可視化しつつある現実を前にして、アフリカに向きあい
さまざまな現象を研究している私たちは、常に日本とアフリカの関係や交流の現状を
歴史的文脈に位置づけて考えることの大切さを学んでおります。
今日では、世界各地の人々は相互に依存して暮らしており、人類の生存を確かなも
のとするためには、地球規模で平和と安全のために行動する責務は避けることができ
ないと思われます日本(人)もアフリカ(人)も正当で平等な活動ができる国際的枠
組みを創りあげる運動に積極的にかかわることが求められています。
既に、ロイター、ニューヨーク・タイムズ、ウォール・ストリート・ジャーナル等
の海外の大手報道機関が本件を報じており、世界的関心を集めるに至っています。ア
パルトヘイト政策はもちろんのこと、人種に基づいて居住区を分けるべきだという主
張は、人種をめぐる偏見や差別と闘ってきた国際社会にとって、容認できない主張で
あることは容易に想像がつきます。
こうした意味におきまして、曽野氏の主張、および、こうした主張を掲載した産経
新聞社のご判断は、国際社会におけるわが国の名誉や信頼を傷つけるものであり、そ
の影響は学界にも及ぶことが懸念されます。とりわけ、長年にわたる努力を通じて、
アフリカ諸国をはじめとする諸外国の研究者や市民と友好的な関係を構築することに
尽力して参りました日本アフリカ学会の会員による今後の研究・教育等の活動に対し
て、重大な影響を及ぼすことが懸念されます。
既に、南アフリカ共和国のモハウ・ペコ駐日大使が抗議文を産経新聞社に対して送
付したことが2月15日付新聞各紙で報道されており、上記のようなわたしたちの懸念
は、一層切迫感をともなったものとなっています。
以上のような立場から考えまして、曽野綾子氏と産経新聞社に対しまして、当該コ
ラムの撤回と関係者への謝罪を要請致します。また、このような内容のコラムを掲載
されるにいたった経緯、人権や人種差別問題に対する見解を明らかにされるように求
めますとともに、当該コラムの取り扱い方、および長きにわたって人種差別と闘い民
主化を実現してきた南アフリカの人々に対するご見解について、明らかにされるよう
に要望します。
敬具
日本アフリカ学会有志一同
要望書呼びかけ人
宮本正興(大阪外国語大学名誉教授・日本アフリカ学会元会長)
北川勝彦(関西大学教授・日本アフリカ学会元会長)
川端正久(龍谷大学名誉教授・日本アフリカ学会前会長)
島田周平(東京外国語大学教授・日本アフリカ学会会長)
日本アフリカ学会会員・賛同人
太田至(京都大学教授)
湖中真哉(静岡県立大学教授)
永原陽子(京都大学教授)
牧野久美子(ジェトロ・アジア経済研究所アフリカ研究グループ)
松田素二(京都大学教授)
峯陽一(同志社大学教授)
新聞報道によれば現在賛同する会員70人程度とのことです。
賛同者のひとり
安渓遊地(山口県立大学教授)