伝承の力)家はオジリ(尾根の下方)に建てよ、エキジリ(谷の下方)に建てるな RT @tiniasobu
2014/08/23
2014年8月22日、昨日の明けがたから、山口市仁保の家では寝ていられないほど
の大雨が降りました。
風化した花崗岩のマサ土の崩壊による広島の土石流災害で亡くなられた方のご冥福
をお祈りします。
これからは伝承の力に頼らないと、生き残るのはむずかしいように思います。
安渓遊地「足もとからの解決――失敗の歴史を環境ガバナンスで読み解く」 湯本貴
和編、二〇一一『環境史とは何か シリーズ日本列島の三万五千年―人と自然の環
境史』文一総合出版)からの引用です。
4.生物文化多様性を生きる
現在の最先端の科学である、予防原則に基づいたリスク管理にも関わらず、なお人
知を越えた危機が襲いかかるかもしれない。その時に大切になってくるのが、それぞ
れの土地で古くから伝えられた伝承に学ぶことではないか、と私は考えている。
伝承の中には、確かな経験にもとづくものがある。例えば私が今の自宅を建てよう
としたとき、地域の人から「オジリに建てよ、エキジリには建てるな」という助言を
受けた。山の尾根の下(尻)に建てて、浴(エキ)すなわち谷筋の下方には決して建
てるな、というのである。それが、数十年に一度の頻度で、大きな土石流被害を経験
してきた花崗岩地帯に住む人々の智恵だった。二〇〇九年、山口県の豪雨で七月二一
日にわが家から数キロしか離れていない特別養護老人ホームが土石流に埋まり七人が
亡くなった。この事故も、計画段階でよく地域の伝承を聞き取りしていれば、あるい
は防げたかもしれないと思うと無念である。そうした伝承が世代を越えて生き続け、
人々を数百年に一度の大津波から救うこともあった。西表島でも人魚を殺した天罰の
話や地名など、津波の記憶というべき伝承を聞いた。
そして、単なる個別の伝承ではなく、それが自然との共存の智恵の体系をなしてい
ると考えられる時、私は、それを「生物文化多様性(biocultural diversity)」と
呼びたい(Ankei 2002)。これは、単に「ある土地にある生物様性と文化の多様性」
をひとことで表現したものではなく、生物文化多様性を、「ある土地(bioregion)
の生物多様性とその恩恵を受けてきた地域住民のもつ土着の文化に基づく行動様式に
よって生物多様性が守られているような相互関係」という意味で使うという提案であ
る。
安渓遊地(あんけい・ゆうじ)