南海日日新聞記事 南島雑話「下書き」見つかる-台湾大に58枚、推敲跡も
2014/05/20
2014年5月12日付の『南海日日新聞』(奄美市)のニュースです。
5月17日には、私たちの送った原稿が見開きで掲載されました。もとのリンクには図
ものっています。
http://www.nankainn.com/kiji/back14-0510-0516.htm#月
南島雑話「下書き」見つかる-台湾大に58枚、推敲跡も
幕末の薩摩藩士で奄美大島に流された名越左源太が著した「南島雑話」の下書き5
8枚が3月、台湾大学で見つかった。南島雑話は近世奄美の習俗をカラーの絵や図を
盛り込んで記述し、南島研究のバイブルと言われる。食物や住まい、倉庫の様子が描
かれ、推敲の跡もみられる。南島雑話成立の過程を知る貴重な資料だ。奄美博物館な
どが収蔵している写本、他の下書きと比較することで南島雑話を含めた近世史の研究
に弾みがつきそうだ。
下書きは山口県立大学の安渓遊地教授(人類学・地域学)と、山口大学非常勤講師
の貴子夫人(生態学)が確認した。安渓教授は学生と共に3年前から、台湾大学図書
館で実習に取り組んでいる。
台湾大学には鹿児島県出身の世界的な博物学者で晩年は台湾で過ごした田代安定(
1857~1928)の蔵書や草稿類も収蔵されている。田代は沖縄・八重山の研究
にも力を入れた。
所蔵資料のうち、奄美関係分の整理に取り掛かったとき、安渓教授は「南島雑話で
見慣れた生き生きとしたスケッチや和紙に毛筆で書かれたもの」を見つけた。現物に
は「辛亥三年改 雑記下書 名越時行」と書かれていたものがあった。
安渓教授はこれを名越が大島に流された1年後の1851年3月に書かれた草稿だ
と考えた。「時行は左源太の諱であり、存命中は本人しか使わない」ためだ。草稿は
田代の没後100年近くが経過して日本人研究者の目に止まったことになる。
安渓教授の話では台湾大学が現在、把握している分の「雑記下書き」は①ソテツな
どの食物②居室倉廩―の2種類に分かれる。居室倉廩は住まいのことを中心に記述し、
一部は彩色も施されている。「南島雑話がいかにして今日、われわれの知る姿に成長
してきたかを知るための貴重な資料だ」(安渓教授)
「南島雑話」は原本の行方は不明。まとまった写本は奄美博物館などにある。下書
きを反映し、絵や図が掲載された写本もあればそうでない写本もある。下書きは奄美
博物館にも7点収蔵されている。今回、台湾大学の資料が見つかったことで研究の幅
がさらに広がりそうだ。
弓削政己・奄美市文化財審議会長の話 河津梨絵氏論文によると、「南島雑話」(
総称)は写本、断片も含めて15機関が所蔵している。まとまった写本は奄美博物館、
鹿児島大学、東京大学、鹿児島県立図書館にあるが、杏雨書屋(大阪市)所蔵本の調
査の必要性も感じている。
台湾大学に修復済みの「雑記下書」が58枚あるということは驚きだ。下書きは東
大本には反映されているが、奄美博物館本には反映されてないものもある。そうした
違いも含めて今後、さまざまな観点から検討が必要だ。
(写真:名越時行の自著のある「雑記下書」=台湾大学所蔵)
安渓遊地 安渓貴子