なつかしい未来)びわこ博物館の古民家でなごむ人たち RT @tiniasobu
2014/04/26
1997年夏のこと、開館間もない びわこ博物館での古代湖会議(ICAL)に参加
していた私は、時間をみつけて、展示場の中に移築された民家にいました。勝手なが
ら、畳の間に上がり込み、ちゃぶ台の前にあぐらをかいて、丸っこいブラウン管の白
黒テレビで東京五輪の中継を見ていました。そんな私に、70過ぎの男性が問いかけ
てきました。
「あのお、そこへ上がらしてもろてもよろしおすやろか?」
「はあ? どうぞどうぞ」と(答える立場でもないけれど)私。
そのとき、この男性は、聞き逃せないことをつぶやいたのです。
「(独白)せやな、もう3べん目やし、ちょっとだけ上がらしてもらおかな」
そして、よそいかけの食事(の模造品)の並んだちゃぶ台の前に坐って、いかにも
うれしそうに、なつかしげにあちらを見たり、こちらをなでたりしておられたのでし
た。開館3ヵ月目で3回目ということは、おそらくこの方は、開館以来毎月欠かさず
来ておられたようでした。
そこへ、60歳ぐらいの女性の3人連れがやってきました。彼女らは、床下にサツ
マイモを蓄えておく場所をのぞきこんで、
「いやぁ、ここ見とうみ!」
「ほんまに、こうやったわ」
「こうやった、こうやった!」
とひとしきりにぎやかでした。
おそらく、この男性の生まれ育った家はもうなく、いまでは、マンションぐらしの
家族の中で、彼の居場所もまたなくなってしまったのではないかな、と私は想像しま
した。
開発が進んで昔ながらの家や暮らしがほとんど消滅してしまったかに思える琵琶湖
周辺で、古い民家とそこでの暮らしを、心をこめて記録し、民家をまるごともらい受
けることに成功した、嘉田由紀子さんをリーダーとする研究チームが、あらたなエコ
ミュゼとしてのびわこ博物館を開館させたのでしたが、その中の民俗展示が、地域住
民の心のよりどころとして、福祉的な施設の役割をも果たす可能性を秘めていること
を知り得た、私にとっては貴重なエピソードでした。
ずっとのちに、古写真を活用して、コミュニティを巻き込む「回想法」の手法を、
あらたに開館した山口市立あいお図書館で実践する社会人を、大学院生として受け入
れてともに学ぶようになったとき、この光景をまざまざと思いだしたのでした。
(以上のお話のあらましは、安渓遊地、1999「生命の森に遊ぶ――屋久島オープン
フィールド博物館の夢」『エコソフィア』四号、昭和堂 に掲載しております)