国際学会)東アジアにおける生態学的持続性とその知恵の簡単な報告 #chikyuken #RIHN #anthropology #ethnology RT @tiniasobu
2011/11/25
地球研ニュース用の原稿です。
フォーラムの報告
第2回東アジア人類学民族学フォーラム
「東アジアにおける生態学的持続性とその知恵」
編集●安渓遊地(山口県立大)
2011年11月9日と10日の両日にわたって、地球研「山野河海(さんやかかい)イニシャ
ティブ」(未来可能性を開く3つの取り組みであるガイア・オイコス・エトスの2番
目)の一環として、表記のフォーラムが地球研で開かれました。これは、2009年11月
に中国雲南省の昆明で開かれた第1回に続く2回目で、激動の東アジアを外からの目
ではなく当事者としてとらえ、未来を見すえてその成果をもちよろうという意図で立
ち上げられたものです。
呼びかけにこたえて、中国、韓国、ロシア、モンゴル、ベトナム、オーストラリア、
イギリス、そして日本から20人の発表者がつどい、前日の京都北山の茅葺き集落探訪
に引き続いて、2日間の討議が行われました。
発表はまず、環境破産に近づいているきびしい現状報告として、北モンゴルでの環
境汚染と自然信仰の衰退や、雲南省のワ族が国家主導の植林で野生植物利用の知恵を
失なった例を検討し、一方、タミールナドゥの土壌調査では、インド洋大津波の塩害
から最短一年で立ち直れたことが報告されました。経済のグローバル化に対応して生
業形態を変化させている例として、ベトナムのタオ族の棚田のシナモン樹栽培、モン
ゴルでのマーモットの肉と毛皮利用とカシミアヤギの急増が検討され、環境への過負
荷に配慮する必要性を確認しました。ローカルな生物と文化の多様性を維持するため
の住民主導の取り組みとして、遺伝子組換え作物や遺伝資源の略奪(biopiracy)と
闘うインドの綿作地帯での種子自給運動と、自然と文化の豊かな関係の復興に取り組
みながら30年にわたって上関原発計画を止めている瀬戸内海の祝島島民の姿が共感を
よびました。
国際政治のはざまで起こった失敗例として、リアンクール岩礁(竹島・独島)のア
シカと、琉球王朝の滅亡にともなう八重山のジュゴンの絶滅過程の発表を踏まえ、私
たちは、崩壊する自然と人間の関係の歴史と現状を見つめつつ、なおけっして希望を
捨ててはならないという展望を共有しました。
続いて、雲南省ハニ族の棚田の養魚池の多角的利用と、西表島の行事食に日本の精
進・中国の三牲・台湾と共通の野生植物利用があることが報告され、アジア稲作民の
自然資源利用の文化と歴史を考えました。水産資源の賢明な利用をめざす人々として、
タイ・メコン川で禁漁区を困窮者救済に使う知恵、済州島海女が「海の畑」の継続利
用のためにしている禁漁・放流・祈願などの取り組み、サモアの小島での漁場の共同
管理の実態を検討しました。現在消滅の危機に瀕している技術として、多摩丘陵での
持続的里山利用の一環だった目篭づくりと、韓国江原道で歌いながら牛犂耕を行う農
民と牛たちの協働が紹介され、芸術の域に達した自然との共存の知恵の記録とその共
有の大切さを感じました。
欧米中心の自然観をアジアの民の生き方から再検討するための理論的枠組みとして、
環境倫理・持続的発展等の言葉に踊らされず多様な生態系に生きる人間間の平等をま
ず確立することと、自然と文化を所有し管理できるという幻想から脱却して「全生物
を含む他者への責任」を行動に移すことをアジアから発信すべきだという提言がなさ
れました。具体例としては、シベリアでの教科書の作成を通した未来への継承と自然
遺産と仏教寺院への巡礼を柱にした観光を組み合わせた実践例などが高く評価されま
した。
このようなアジアの知恵と実践を共有し、地球の未来へむけて継承発展させること
を目指して、今後「東アジア人類学協会」として活動することに合意し、2年後の韓
国での再会を約して散会しました。