わが師)世界の若者と語るミヤモト・ツネイチの魅力
2010/09/18
このたび、農文協から『あるくみるきく双書 宮本常一とあるいた昭和の日本』と
いう全25冊のシリーズが、2010年9月から刊行されることになり、農文協から原稿の
依頼がきました。
『出版ダイジェスト』10月号への投稿です。昨日の経験をもう今日書いている”途
説”と”伝不習乎”の典型です。
世界の若者と語るミヤモト・ツネイチの魅力
この九月一六日、「持続可能な観光」を学ぶ講座で、アジア・アフリカ・ラテンア
メリカからの一二名の若きリーダーたちにお話をする機会があった。持参した近著の
中から、宮本常一先生との共著の形で出させていただいた『調査されるという迷惑―
―フィールドに出る前に読んでおく本』(みずのわ出版)を取り上げて、「この帯の
写真の人物を知っていますか?」と尋ねたら、ほぼ全員が「ミスター・ミヤモト!」
と答えた。前日に周防大島文化交流センターを訪ねて、高木泰伸センター長や、日本
観光文化研究所の月刊誌『あるくみるきく』の編集長であった山崎禅雄氏の講義を受
けてきたところだったのだ。
私はまず「いったい誰のために二ヵ月半も日本に勉強をしにきたのですか?」と問
うた。答えは、地域住民のため、国民のためというものが多かったが、世界のためと
答えたルワンダの青年、自分自身のためとしたドミニカやタイの女性もいた。民俗学
にせよ観光開発にせよ、地域に受け入れられなければ始まらない。肩書きやりっぱな
目標はさておいて、まずはひとりの生活者の本音として自らの旅の動機を語れ。それ
が、宮本流のフィールドワークの極意だったのではないだろうか。
それぞれの地域に画一的なグローバリゼーションの波が押し寄せてくる中で、いか
にして地域固有の価値――文化や自然の多様性・独自性――を守ることができるか。
アフリカの森をエコツーリズムで守ろうという動きを紹介し、質疑応答を通して確認
したことは、「本当に大切なことが何かは、地元の人たちが教えてくれる」という事
実だった。
高度経済成長のさなかの日本をひたすら歩き回ってその記録を残した『あるくみる
きく』の遺産がここによみがえることを喜びたい。それは、宮本常一先生の薫陶をう
けた若者たちが「歩く・見る・聞く・考える・創る」という地域との濃い関係を築い
ていく道筋の記録であり、宮本先生の夢が、人的な交流を通して世界の若者達に共有
される第一歩でもあるからである。