現場の声)設計者からの諌言「浜岡原発は制御不能になる」
2010/06/06
環境問題の講義では、現場の声を重視しています。これは、原発設計者の生の声。
私も、原発設計者の声を直に聞いたことがありますが、またの機会に紹介しましょう。
http://www.news.janjan.jp/area/0504/0504145797/1.php
設計者からの諌言「浜岡原発は制御不能になる」
林信夫2005/04/15
2号機の設計に当たった技術者として、私の知っていること、私が経験したことを、
すべて明らかにすることにしました。それが社会に対する私の責任と考えたからです。
私(林信夫はペンネーム)は日本原子力事業株式会社(現・株式会社東芝)の社員
として、中部電力浜岡原子力発電所2号機の設計に当たった技術者です。浜岡原発は
基礎を固定する岩盤の強度が弱いという問題があり、当時、技術者たちは原子炉が地
震に耐えられるようにいろいろ工夫をしましたが、いずれも耐震計算をしてみると「
持たない」という結果が出たのです。それでも2号機の建設はそのまま進みそうでし
た。私はとても悩みました。そして、技術者の良心に従って会社を辞めました。周り
の人たちへのささやかな「警告」になればと思ったからです。
それから30年余りが経ちました。今年1月には、浜岡原発の運転中止を求める署
名運動が全国的に進められていることを新聞記事で知りました。中部電力が浜岡原発
の大規模な補強工事をすることも新聞記事で読みました。ほんとうに恐ろしい事態が
起こっているに違いありません。私はこの際、私の知っていること、私が経験したこ
とを、すべて明らかにすることにしました。それが社会に対する私の責任と考えたか
らです。
2つのことを申し上げたいと思います。
第1は、浜岡2号炉の耐震計算結果は地震に耐えられなかった
第2は、直下型地震が起こると核燃料の制御ができなくなる可能性がある
ということです。
浜岡原発(原発震災を防ぐ全国署名連絡会のHPから)
耐震計算結果は地震に耐えられなかった
私は1969年4月に東芝の子会社である日本原子力事業(株)に入社し、東芝鶴
見工場で、原子炉の炉内構造物の設計に従事しました。上部・下部シュラウド(炉心
隔壁)、上部・下部格子板、緊急冷却装置など核燃料を支える部分の設計です。
最初は東京電力福島原発2号炉、次に中部電力浜岡2号炉の設計を担当しました。
設計者は計算担当者の指示にしたがって、炉内構造物をいくつかの部分に分け、その
部分の重量など計算用のデータを提出します。そのデータに基づいて計算担当者が耐
震計算をします。
浜岡2号炉の場合、設計者は100人近くいました。部門ごとの設計者代表が集め
られた会議の席で計算担当者から聞かされた話は「建屋と圧力容器について、いろい
ろ耐震補強の工夫をしてみたが、空間が狭すぎてうまく行かないので諦めた」という
ことでした。原子力発電所の建設は、建屋→建屋内の圧力容器→容器内のシュラウド、
格子板などといった順に、安全性の許可を得ながら5、6年掛かりで進めますので、
後になって補強のための空間がないとわかっても、それから広げることはできないの
です。
私も私が担当していた核燃料集合体の上部の水平の位置を保持するための上部格子
板の応力計算をしてみましたが、「完全につぶれる」という結果が出てしまったので
す。
計算担当者の説明によると、浜岡2号炉が地震に耐えられない原因は次の2つです。
(1)岩盤の強度が弱いこと(福島は強かった)
(2)核燃料集合体の固有振動数が想定地震の周波数に近く共振し易いこと
ごまかしの再計算
そして計算担当者は、「対策」として、次の3つの方法で再計算すると述べました。
(1)岩盤の強度を測定し直したら強かったことにする(福島なみ)
(2)核燃料の固有振動数を実験値でなく米GE(ゼネラル・エレクトリック)社
の推奨値を使用する
(3)建屋の建築材料の粘性を大きくとる(振動が減衰し易い)
つまりごまかしの計算をして、当初計画のまま押し通してしまうということです。
私はその直後の1972年7月に退社することにしました。会社の会議室で上司に
辞意を伝えました。自分の席に戻ったときには、耐震計算結果のバインダーはなくなっ
ていました。
私の退社後に耐震補強を行ったかどうかは私にはわかりません。しかし、浜岡1号
機は配管破断事故とシュラウドの亀裂で停止中、2号機も亀裂の入ったシュラウドの
交換が終わる(08年3月)まで停止と報道されています。私が設計に携わった頃か
ら今日まで大きな地震もなかったのに、このように深刻な事態が起こっていることか
ら推測すれば、中部電力は耐震のための設計変更はしないまま建設を進めたものと考
えられます。
計算担当者が中部電力に内緒でごまかしの計算書を提出した可能性がないわけでは
ありませんが、技術者が関係者に相談もせずに偽の計算書を出すことはまずあり得ま
せんから、中部電力は地震に耐えられないことを承知していたはずです。
浜岡1、2号機が造られた70年代初めには東海地震の震源域のど真ん中に位置し
ていることがわかっていなかったという報道がよくありますが、もっと問題なのは原
子力発電所立地について地盤強度の基準がなかったのではないかと思われることです。
プレート境界や活断層の有無以前の問題として、なぜ、地盤強度の弱い浜岡に電発が
立地したのか。基準さえあれば浜岡原発の建設は避けられたはずなのです。
退社して10年ぐらい経ったとき、大学院時代の研究会のOB会で、大手重機メー
カーで原子力施設の仕事をしている後輩に会いました。「浜岡2号機は耐震が持たな
いので会社を辞めた」と話したところ、彼はたまたま浜岡2号機の圧力容器を担当し
ていて「そう言われれぼあそこはちょっとした地震でもビンビン揺れます」と言って
いました。これが大地震もなかったのに配管が壊れたり、シュラウドに亀裂が入った
原因と思われます。
中部電力は、地盤および原子炉の建家、圧力容器、配管などに、震度計を設置して、
地震時のデータを公表すべきです。そうすれば、すべてが明らかになります。公表で
きないとすれば、それは浜岡原発がいかに地震に弱い構造であるかを自ずと物語るこ
とになります。
直下型地震が起こると核燃料の制御ができなくなる可能性がある
現在の原子炉の耐震計算は横波(水平方向の揺れ)に対してのみを行っています。
しかし、阪神・淡路大震災のような直下型の地震では、縦波(上下方向の揺れ)も強
く、建物がつぶれました。この縦波を原子炉について考えると、制御棒の挿入が不可
能になり、原子炉は制御不能の状態に陥ることが考えられます。
ご存知のように、軽水炉(BWR型)原子炉の燃料集合体は使用済みになると、原
子炉から引き上げられ、新しい燃料集合体に換えられます。これが簡単にできるのは、
燃料が下部格子板の上に乗っているだけだからです。ただし、燃料集合体と燃料集合
体の間を制御棒が動くスペースを確保するために、下部格子板の穴にはめこまれ、横
方向には動かないようになっています。
メルトダウンの危険性
ここを直下型の大地震波が襲うことになると、大きな上下の振動と、水平方向の振
動が同時に来ます。上下の振動が激しければ、燃料集合体は上に投げ出され、下部格
子板から離れて宙に浮き、下部格子板は水平方向にも振動してますから、穴の位置が
ずれて穴に戻らなくなる可能性があります。したがって、強い地震を感知して、自動
的に制御棒を挿入しようとしても、制御棒が核燃料集合体にぶつかったり、破損した
りして、挿入できなくなる可能性があります。
原子炉が制御不能に陥れば、核反応は止まらなくなります。その後、液注、配管破
断による炉内の水漏れ、緊急冷却装置の故障を経て、やがてはメルトダウン(炉心熔
融)です。浜岡原発は世界に放射能を撒き散らす最悪の事態を引き起こす可能性があ
ります。過去に設計に関わった者として、そのことを明確に申し上げます。
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