2007/02/01(木)
2007年1月24日 山口県庁で、山口県松くい虫対策協議会が開催され、今後の空中散布についての方針が討議されました。そこで、反対の立場にたつ、山口県みどりの会(ふしの川清流の会もメンバーになっている、空中散布に反対する団体の連合体です)を代表して萩市の藤井郁子さんが参考人として10分間の発言をしました。
以下は、その発言内容です。
この日の審議で、山口県は、散布面積を4割減らすことを決定しました。
山口市では、旧徳地町と仁保がおもな散布地ですが、5割減少。清流の会が活動しているふしの川流域では、約4分の1にすることが決定されました。
農業分野におけるポジティブリスト制度の導入など、空中散布にはいろいろ向かい風が吹き始めました。わたしたちも小さくても向かい風をおこす台風の目の一つでアリ続けたいと願っています。
発言内容
まず、本協議会が山口県の森林政策、とりわけ松枯れ被害対策に指導的役割を果たしておられますことに、深く敬意を表したいと思います。
本日は、高い識見をお持ちの会長を初め委員の皆様の前で、本協議会の参考人として意見を述べさせていただく機会を与えていただいたことに感謝申し上げます。
私は、山口県萩市下田万地区在住の自営業、藤井郁子です。
県下の環境問題に取り組む住民団体の連絡会である、山口みどりの会を代表して、松枯れ対策の中で、特に有機リン系殺虫剤の空中散布に関する山口県下の地域の実情や、地域住民の意見を中心に、空中散布事業に異議を述べ、森林保護政策転換への提言を行いたいと思います。山口みどりの会は、これまでも数々の提言をしてきました。お手元の資料のとおりです。よろしくお願いいたします。
山口県と市町村は、松枯れを食い止める目的で30年間、特別防除いわゆる殺虫剤の空中散布事業を行ってこられました。30年を経過した今日、県民国民の税を使い、県下の松林に有機リン系殺虫剤を空中散布するこの事業が、正しい政策であったのかどうか、検証すべき時期に立ち至っているのではないかというのが、正直な想いです。厳しい財政事情が県民の暮らしを覆っています。事業の正しい検証と結果の公開を県民は求めていると思います。
この事業の成果であるべき松林は果たして守られているのか、この事業によって健康で安全に暮らす県民の権利は侵害されていないか、民主的な手続きを踏んで政策が決定され県民主体の事業が行われているか、果たして地域住民はこの事業を望んでいるのか等について、県民である地域住民の具体的な声から、お伝えしようと思います。
最初に、最も深刻な問題である健康を害された方の「空中散布の中止」を求める声を紹介します。
山口市在住のAさんは、7年前に化学物質過敏症を発症され、療養のために空気のきれいな地区を居住地に選ばれたにもかかわらず、至近距離で有機リン系殺虫剤を空中散布され体調悪化を訴えておられます。毎年、山口市に空中散布中止の申し入れをされています。把握されていますでしょうか。
空中散布が行われる時期にはホテル住まいをされるそうで、経済負担を含め損害は計り知れません。農薬を使用した野菜を食べると口の周りや舌がピリピリし、頭痛、吐き気、腹痛等で通常の生活はできないと述べておられます。
散布しても松枯れが続き、やがて至近距の空中散布を止めてしまったそうですが、2km離れている所では続いているようで、それでも体調への影響は無くならないそうです。
彼女が関わっている北里大学の先生の話を引用します。
空中散布の農薬は「有機リン系農薬」なので、消えるには1ヶ月くらいかかる。天気がよいと、土にしみこんでいる有機リン系農薬が空中に舞い上がり、ずっと漂い1ヶ月かかって消える。
彼女は「元気な松を守るために、山崩れを防ぐためと称しながら、私のような人間をどんどんつくっている。むしろ、空中散布を中止することが環境を守ることではないのか」と言っています。
次に、山口市仁保地区の住民の声を紹介します。
・山口市林務水産課に尋ねると「地元から空中散布の要請があるから撒くのだ」と答えがかえってくる。しかし、空中散布について「今年は撒くか撒かないか」と地元住民に問われたことは一度もない。
・自治会長が要請しているとしたら、自治会の議事録に話し合われた内容が書かれていなければならない。残念ながら、そんな議事録は見たことがない。
・空中散布を止めてほしいと思っている人は少なからずいる。なぜ、意見が反映されないのか。
・空中散布の目的は、マツノマダラカミキリを殺すことではないのか。マツノマダラカミキリが空中散布の結果、死んでいるという証拠を見せてほしい。マツノマダラカミキリの死骸を、散布後に見たことがない。
次に萩市田万川地区の事例と住民の声です。
・魚付保安林に指定されている尻高山に農薬の空中散布が行われていたが、とうとう松はすべて枯れてしまい、今では、樹種転換が自然に行われ、その土地にふさわしい雑木で覆われている。農薬の空中散布はいったい何の効果があったのだろうという疑問がわいてくる。
・鶏を放し飼いにしていたところ、農薬の空中散布後に鶏が死亡したので、散布農薬の危険性を実感した。
・環境ホルモンという言葉がなかった頃だが、豚小屋の上空で農薬の空中散布が行われたことと奇形の豚が誕生したことが関連があるのではと思われる。
・現在、県境の約150haに農薬の空中散布が行われているが、撒いても撒いても枯れるので徐々に散布面積を減らしているだけのように見受けられる。空中散布をした所は伐倒駆除を組み合わせているようで、成果があるように見えるのではという意見もある。
・樹種が松でなければならない理由に説得力がない。
・地元の地域住民への説明や意見聴取はもとより、農薬の空中散布を要望した覚えはないという声や、要望書があれば見てみたいという声もある。
・殺虫剤の空中散布で、松枯れが止まるとは思っていない。枯れ松を伐倒駆除し、自然遷移を待つのが賢明な対処方法だ。補助金が出なくなれば、空中散布は止めるだろう。松の価値より事業自体が目的化している。
・高度成長時代になってから、里山に入らなくなった。もともと、やせ山に生育する松を取り巻く環境が変わっている。
・松枯れの原因は、マツノザイセンチュウを運ぶマツノマダラカミキリという説には無理がある。センチュウは昔からいた。原因と結果が逆ではないのか。大気汚染や根の感染が関係していないか、調べたらどうか。
・井戸水を飲んでいるから、空中散布は止めてほしい。
さて、委員の皆様ご承知のように、1999年(平成11年)国の公害等調整委員会は、農薬空中散布の実施団体である私たち地域の地元自治体にこのような調停案を出しました。
・将来的に特別防除(空中散布)の必要性がなくなることを目指す。
・特別防除にあたっては、国の基準以上に条件をつける。しかし、準司法的機能を持つ公害等調整委員会の調停案は拒否され、今日に至っています。
この年、突然、散布農薬NACがMEPに変更されました。NACが発ガン物質であることが判明したためです。住民は何の説明も聞いておりません。
さらに遡りますと、1997年(平成9年)「松くい虫被害対策特別措置法」が「森林病害虫等防除法」に吸収された時の付帯決議には「特別防除を実施する必要がなくなるような条件を整備しつつ、伐倒駆除、樹種転換等の方法を可能な限り選択するとともに、松林の健全化のため適切な森林施行を併せて推進すること」とあります。
まさに、枯れ松の伐倒駆除、樹種転換が優先的な施策として示されており、共感できるものです。この法に明示された考えは、特別防除は極めて特殊な緊急措置的な施策であり、恒久化されるべき性質の事業ではないということです。
松という樹木を、自然や文化の歴史をとおし、長いスパンで捉える必要があると思います。その栄枯盛衰を多様な視点で捉え、松枯れの原因も多角的に分析すべきです。
次は、農薬の空中散布を取り止めた近隣の自治体についてお話します。
・隣町である阿武町は「伐倒駆除は効果があるが、空中散布には何ら効果はない」との理由で空中散布を中止されました。意見聴取等を通して、その判断の背景に耳を傾けてみる必要があるのではないでしょうか。
・萩市大島の事例です。大島は葉タバコの生産地です。(株)日本たばこ産業が契約農家の葉タバコを買い取る仕組みになっています。その(株)日本たばこ産業が農薬の空中散布が行われた葉タバコは買い取らない方針を打ち出していることで、結局、農薬の空中散布を中止したということです。
私が居住する地域におきましても、近年、残留農薬に対する関心が高まってきました。有機栽培や無農薬野菜に対する消費者マインドも影響していますが、法整備が整いつつあることも否めません。化学物質に対する考え方、人と自然の関係はどうあるべきか等、真剣に考えねばならない時代を迎えたのだと思います。
このように、確かな科学的裏付けや誰もが認める効果もなく、人の健康を脅かし生活環境を汚染する、松枯れ防止の農薬空中散布を止め、豊かな森林、人と自然が共生できる地域社会の構築に向けて、県民である地域住民の声をしっかり聞いて、山口県政、とりわけ森林政策に反映していただきたく意見を述べさせていただきました。